スペインは、90年代以降だけでもU−17やU−19で8回欧州を制覇していることからもわかるようにユース年代では「タレントの宝庫」として知られています。この実績の下地として、自国選手の育成には概して熱心であり、古くはアスレティック・ビルバオレアル・ソシエダのようにスペイン国内でも地方出身者のみの「純血主義」で選手を育成し、トップチームに引き上げるケースも多く見られました。

 また強豪として知られるレアル・マドリーからもカンテラ(下部組織)から多くのGKがリーガ・エスパニョーラに送り出されてきました。例を挙げると、
サンチャゴ・カニサレス(現バレンシア
・コペーニョ(現セビージャ)
イケル・カシージャスレアル・マドリートップチーム)
ディエゴ・ロペスレアル・マドリートップチーム)
・ペドロ・コントレラス(レアル・ベティス
カルロス・サンチェス(2部リーグ、カステジョン
など第一線で活躍している選手も少なくありません。
 
 スペインでも他のクラブチームと比較して異色なのは、現欧州王者であるFCバルセロナの育成システムです。バルセロナはホームスタジアムであるカンプ・ノウを建設する際、もともと別荘として利用されていた建物を買い取り、それをマシア(寮)として使用しています。マシア内にはパソコンルーム、キッチン、図書館なども完備されており、選手の面倒を見るための職員も数多く常駐しています。

 ここではフットボールの指導のみならず「人間教育」にも力を注いでいて、例えば学校の授業料を含むすべての経費をクラブ側が負担しています。これにはれっきとした理由があります。マシアに入寮できたとしても、関係者によればバルセロナのトップチームに到達するのは全体の2%にも及ばないとのこと。他のチームに売却されて活躍する選手もいますが、教育に重きを置いているのは、仮にサッカーで大成できなくても勉学や他の分野で活躍できることを期待しているからに他なりません。さらにマシアに入寮してくるのは主にスペイン国外の子供たち。アジア、アフリカ、南米など国籍は様々で、ホームシックにかかる子も少なからずいるため、常駐職員達は出来る限り「親代わり」となって親身に対応しているとのことです。そしてここからヴィクトール・バルデス(FCバルセロナトップチーム)、アルベルト・ジョルケラ(FCバルセロナトップチーム)、ホセ・マヌエル・レイナリバプールイングランド、スペイン代表)などが巣立っていきました。

 バルセロナの育成システムにおけるもう一つの柱は(現段階では計画の進行中ではありますが)、サッカースクールの世界的な展開です。現在はエジプトとメキシコの2カ国だけにスクールが開校されていますが、将来的には世界中にスクールを開き、有望な人材は出来るだけ早期にマシアに送り込みたいようです。またアルゼンチン一部リーグアルセナルとも業務提携し、未来の原石発掘にも余念がありません。

 このバルセロナの例に見られるように、ここ数年でユース年代の育成システムも様変わりしています。「自国選手の育成→国際化」への変化です。実際レアル・マドリーのスカウティング担当者は「いい人材を獲得するためなら国境を越える」と、「国際的に・若い逸材を・出来るだけ早い時期に確保すること」はもはやスタンダードな考え方であることを明言しています。ほんの数シーズン前まではトップ登録25人中15人がカンテラ出身者であり、スカウティングもマドリードを中心としたスペイン国内に限られていたレアル・マドリーも、時代のニーズに適応する必要が出てきたのです。

 この他にカンテラの充実を図っているクラブとして昨シーズンのUEFAカップ王者セビージャ、ビジャレアル等が挙げられます。これらのクラブは欧州戦線でも好成績を残しており、なおかつカンテラ出身者を積極的に起用しています。近年の成功例といえるでしょう。